町工場にIoTを導入したいけど、そもそもIoTで何ができるのか、IoT導入のために何をしたらいいのかわからない、という方も多いと思います。
このブログでは、そのような方に向けて、さまざまな分野から、IoT導入事例をいくつかピックアップして、紹介していこうと思います。
今回は、低価格の自社開発IoTシステムにより生産性を高め、将来の大型IT投資のための「貯金」をしている事例を紹介します。
低価格IoTで、将来の大型IT投資資金を貯金
背景
福岡県にある戸畑ターレット工作所は、従業員数248名の企業で、非鉄鍛造、アルミ鋳造、精密切削加工などを手がけています。
同社では、主力製品である自動車ヘッドライト用部品の受注が急増したことに伴い、生産性を高めることで生産量を増やそうとしていましたが、思うように進みませんでした。
その大きな原因は、アルミ鋳造の製造工程には欠かせない、人手によるバリ取り作業でした。この工程の最適化を図り、生産性を高めるために、IoTの仕組みを利用した作業の「見える化」に取り組むことにしました。
取り組み内容
同社は、各人員のバリ取り作業時間を測定するのに、IoTを活用しようとしましたが、地元ITベンダーに見積もりを依頼したところ、380万円と、非常に高額な回答が返ってきました。費用対効果が不明確な状態では、投資に踏み切ることはできず、いったん取り組みは中断することになってしまいました。
再び動き出したのは、地元の産学連携機関である北九州産業学術推進機構(FAIS)の関係者からのアドバイスがキッカケでした。費用が高額でIoT導入を断念したことをメンバーに話したところ、1万円前後で購入できる市販のワンボードコンピュータ「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」を使えば、所望の機能を備えたIoTシステムを低コストで実現できる可能性があるとアドバイスを受けました。
それを受けて、同社はIoTを自社開発することを決断しました。FAISから紹介された技術者の指導、インターンとして参加していた学生の協力もあり、1年以上を要して、ようやくシステムを自社で開発することできました。
システムには、約20台のラズベリーパイやウエブカメラ、無線LAN機器など、民生用の市販品が使われており、費用は約30万円で済んでいます。
効果
開発したシステムは、作業者が1回の作業を終える度に、作業台に取り付けたスイッチを触ることにより、各人員の1回毎の作業時間を集計するものです。
あわせてウエブカメラも設置し、異常なデータが発見されたときの原因究明に用いています。
システムを運用し、作業時間を解析した結果、各人員への作業の配分が適切でなく、負荷が1人に偏っていたことが判明しました。偏っていた作業の平準化により、生産量は安定するようになりました。
なお、同社は今回、自社でIoTシステムを開発しましたが、現状のシステムを将来的にも使い続けるつもりはありません。
今後の大きな改善には、やはり専門のベンダーの存在が不可欠であり、それにはどうしても大きな投資が必要になると考えています。
そのため、現状のシステムでコストを削減し、捻出した費用を「貯金」として積み立て、将来の大規模なシステム投資に備えようとしています。
ポイント
- 外部人材の力も借りながら、自社で低価格にIoTを開発した点
- 低価格IoTを、将来の大型IT投資への備えと位置付けている点
IoTに興味はあるものの費用対効果が明確でないため、なかなか投資に踏み切れないという中小製造業の経営者は少なくないと思います。本事例のように、小さく始めて生産性を高め、そこから捻出した費用を再投資しながら、機能やシステムを強化するという進め方は、中小製造業におけるIoT導入の現実的なアプローチのひとつと言えます。
また、IoTシステム全体をベンダーに任せると、どうしても費用が高額になってしまい、中小企業にとっては敷居が高くなってしまいます。FAISのように、必要な部分だけの技術サポートを提供するサービスが広がることは、自社のリソースを活用してIoTの導入に取り組む中小企業にとって、非常に重要と言えます。
当社の簡易IoTシステムは、本事例と同様に、民生用の市販品を使った簡単なシステムであり、低価格で導入できます。
当社の簡易IoTシステムは導入も非常に簡単なので、まずは一度導入してみて、IoTの本質や有効性を理解した上で、業務改善の取り組みを、より深く進めていくのも良いのではないでしょうか?
(簡易IoTシステムについては こちら へ)
また、技術サポートも承ります。お問い合わせは こちら まで。
(出典)
- 日経BP総研「ものづくり未来図」