中小製造業のIoT事例 22 〜農家の息子が作ったスマート水田サービス

町工場にIoTを導入したいけど、そもそもIoTで何ができるのか、IoT導入のために何をしたらいいのかわからない、という方も多いと思います。
このブログでは、そのような方に向けて、さまざまな分野から、IoT導入事例をいくつかピックアップして、紹介していこうと思います。

今回は、農業におけるさまざまな課題を解決しようという取り組みの中にアグリテック(農業IoT)というジャンルがあるのですが、そのアグリテックに挑むスタートアップ企業の活動を紹介します。


農家の息子が作ったスマート水田サービス

背景

富山県滑川市に本社を構える笑農和(えのわ)は、「農業現場主義のIoT・AI技術」を掲げるアグリテックのスタートアップ企業です、

同社代表の下村氏は、農家の長男として生まれましたが、間近で農業を体験してきたが故に、農家は「重労働」、「休めない」、「かっこ悪い」と思うようになり、家業は継がず、ITエンジニアとして過ごしてきました。

しかし、仕事をしながら実家の手伝いもしているうちに、農業をIT化することによる効率向上の可能性に気づきました。着目したのは水田の水管理です。水田では水門を開閉し、最適な水位になるように調整する必要があるのですが、ほうぼうに散らばる水田を一つひとつ巡回して開閉を繰り返す作業は大きな負担となってきました。さらに農業従事者の高齢化に伴い、若い農家への水田の委託が急増し、水門の開閉管理はますます煩雑になってきています。

取り組み内容

この課題を解決すべく、下村氏は一念発起して2013年に起業し、スマート水田サービス「paditch」を開発しました。

paditchを使うと、水門の開閉や水位調整の状態管理を、手元のスマートフォン、タブレット、パソコンで遠隔から行うことができます。タイマーによる水門の開閉指示、稲の生育に応じた水位での自動開閉にも対応しています。

水位管理は、手を抜いてしまうとコメの品質に直結してしまう上、地味でありながら、人手が欠かせない作業です。また、水位調整は長年の勘だけで代々行われてきており、属人的で数値化されていません。
このような中、まずは遠隔操作で巡回の負担を減らし、水位をクラウド経由で管理できれば、これらの課題解決につながるのではないかと考えて、本サービスを開発しました。

効果

すでに導入済みの農家からは「現場に足を運ぶ回数が大幅に減り、時間を有効に使えるようになった。深夜や早朝に水田に行かなくて済むようになったのはとても助かっている」との声が聞かれています。

また、デジタルによる可視化は、農業指導にも恩恵をもたらします。データとして記録できていれば、なぜこのタイミングで水を入れたのか、逆になぜ抜いたのかの理由がわかるようになります。そうすれば農業に馴染みのない人でも、ある程度は数値で状況を把握できるようになります。

ともすれば、農業IoTはアイデアが先行しがちで、本当に農家の役に立っているのか疑問なものもありますが、paditchの最大の特長は、農家の負担を直接的かつ速やかに減らした点にあると言えます。

ポイント

  • 農業とITの両方を深く理解している点
  • 現場近くに拠点をおき、開発を行っている点

IT人材は、首都圏に偏在していますが、IoTシステム開発においては、現場とのコミュニケーションが最も重要になります。現場の状況や課題を熟知していなければ、良いシステムは作れません。
このように、同社のようなアグリテック企業にとっては、地方に拠点をおくことこそが「力」になります。今後は、同社のような企業が、地方にどんどん生まれてくるかもしれません。

当社の「自分でIoT」パッケージは、IoTデバイスの設計図、サンプルプログラム、技術アドバイスをセットにしたサービスです。お客さまご自身でのIoTシステム開発をサポートします。
特に農業分野においては、IoTの導入を検討しようとしても、費用対効果の面から、断念するケースも多いのではないかと思います。
そのような方は、「自分でIoT」パッケージも使って、ご自身でIoTシステムを開発するスキルを身につけるのも良いのではないでしょうか?
(「自分でIoT」パッケージについては こちら へ)

 

(出典)

  • 日経BP「ひとまち結び 〜人の想い、街の未来」